アラフォーからの転職・移住・結婚・デザイン…あてどもなく彷徨う中年放浪記

2016年2月12日金曜日

続けること、覚悟を持つこと

クルーズ船から、会社のある方を眺める。

仕事で、地元のFM局で10分コーナーのコーディネートを担当していて、
毎週月曜日の朝は生放送の立ち会いでスタジオに出向く。
今週の放送でちょうど100回目だった。
1回だけ、朝起きれずに別のスタッフに立ち会いをお願いした以外は
全て立ち会いしている。

2年弱、よく続いたなーと思いつつ、
世の中には生放送1,000回とか5,000回とか7,000回というオバケみたいな例も…
そもそも自分が携わっているのは10分コーナーなので、比べようもないけど。
さすがに100回続くと、立ち止まって悩んだりせず
スムーズかつオートマチックに、コーディネート業務ができるようになってきた。
続けることで、ようやく内容に幅と厚みが出てきた。
10分×100回の経験を与えてくれた人たちに感謝。



上記のFM局のディレクターと打合せの途中で雑談していた時に、
彼が「選曲してても、最近のバンドは音が良くないから大変」と言った。
彼は30年以上、ラジオの現場でディレクターをしている、
関西でも随一のキャリアを持つ大ベテラン。
仕事が丁寧で早く、いつも勉強させてもらっている。

発言の真意をただすと、
「業界のレベルが下がって、簡単にデビューできてしまうから、
技術が追いついていない」とのことだった。
更に「新しいミュージシャンたちは安易に業界に入ってくるため、
ちょっと儲からないとすぐに辞めてしまう。
例えばこの間もドラムが抜けた◯◯ってバンドとか…」とのこと。
そのバンド、俺でも知ってるぐらいだから少しは売れてると思っていたんだけど。

そのディレクター曰く、1度音楽業界を抜けた人間が
音楽業界で復活することはほとんどゼロに近いとのこと。
頑張っている人は応援したくなるけど、
辞めてしまう人には「はい、お疲れさまでした」と思ってそれっきりだという。

それってデザインの業界も同じだな、と思った。
「覚悟の問題ですかね」と水を向けると、「そう!覚悟」と強く同意していた。

ディレクターが最近、仕事でインタビューした
若手でかわいいルックスのミュージシャンのNさんとか、
誰でも知っている奇跡のアイドルHさんは、
腹が据わっていて、大人も驚くようなしっかりとした発言をするとのこと。
「彼女たちは、覚悟を決めているから発言にブレがなく、目標をちゃんと見据えている」とのことだった。


この1年、会社のインターンシップ受け入れ係に
行きがかり上任命されてしまい、昨年から10人弱の学生さんの相手をした。
彼ら彼女らが、入れ替わり立ち替わり弊社で働いてくれている。
一般大学の学生さんもいれば、芸術大学の学生さんもいる。
ぼんやりした人もいれば、即戦力クラスの優秀な人もいる。

この間、初出社のとある学生さんと昼ご飯を食べながら話していた。
彼女は一般大学の学生さんで、商品やサービスの企画へ就職を希望している。
以前、別のインターンシップで商品開発に携わった際、
パッケージデザインなども素人なりに考えたりしたらしい。
彼女に「デザイナーは、美術大学出身の人しかいないのか?」と聞かれた。
将来、就職して仕事をしていく上で、
デザインの知識や経験が必要だと感じたのかも知れない。

彼女の質問に対しては、
「必ずしもゼロではないが、美術大学や芸術大学、
デザインの専門学校を出ていない人は相当少ない。
でも地頭の良い人で、かつ勘が良く、手が動く人なら、
数年で普通にデザイナーとしてやっていける。」という旨の返答をした。
実際に、そういうレアなケースの知り合いもいたし。

でも本当はそれだけじゃないなーと、
その会話をして以来ぼんやりと考えていた。

自分は高校3年になってから美術の道を志したので、
現役時代の受験はショックなぐらい、さっぱりだった。
何がダメかも分かってなかった。
幸いにも東京の予備校で浪人をさせてもらうことができ、
そこで1年間みっちりと美術大学の受験勉強をしたことが礎となり、
その後大学に入学して4年間、
就職してデザイナーとして働いた15年間、
それから神戸でデザイナー兼何でも屋として3年間。

20年以上のキャリアを重ねてきて、造形に対する考え方から技術から、
その周辺のことをあれこれと学んで経験してきた。
それらは確かにデザイナーとして食っていくために必要だけれど、
それ以前の“資格”とか“通行手形”みたいなものってあるなあと。

いま考えると、予備校〜大学の間は、この道(自分ならグラフィックデザイン)で
やっていく、食べていくんだという「覚悟」を徐々に決めていくために
必要な時間だったと思う。
学ぶ内容の難易度の高さや、周りに優秀な人材が多いという環境で、
それでも自分はこっちの世界に進むんだ、という取捨選択をせざるを得ない時間。
もちろんその環境でふるい落とされたり、
「どうやら自分には向かないぞ」と気づいて、自ら違う道を選んだ連中も多い。

会社に入ってからは、更に周りのレベルが上がり、
全然無名の社内デザイナーにもクライアントにも
驚くほど優秀な人がいて(もちろんそうでない人も山のようにいて)、
ますますこの仕事を続ける気持ちが本物か偽物か、突きつけられることが増える。



自分が出会った大学生たちで、
何となく倍率1倍で大学に進学して、
就職活動の段階になって進路に迷っている姿を見ると、気の毒に思う。
ふるいにかけられる時期が少なかったが故に、自分の気持ちが定まらない。

それでも、まだ大学生なら間に合う。
良い年になっても、全くふらふらと腰が定まらない連中よりは救いがある。

この道で食っていくんだという覚悟がない人間に、
具体的なデザインの手法や、
ケースバイケースで変えなければならない考え方や、
細かい部分の納め方や、
フィニッシュワークの秘訣や、
後々の管理やマネジメントを考えた展開の心得や、
お客さんとのやり取りで気をつけることや、
プレゼンテーションのコツなんかを伝える気にはならない。

なぜならそんなことを相手も求めていないから、話しても伝わらない。
覚悟がない人は、「できないこと」すら甘んじて受け入れてしまい、
一向に成長することがない。
プロとして最低レベルのことができなくても、知らなくても恥を感じない。
お客さんにより高い価値を提供することに興味がない。
上のレベルを目指して、勝負するというプライドがない。
同じ失敗を繰り返し、同じところを延々とぐるぐる回り続ける。
らせん状に落ちることはあっても昇ることはない。

「何もできない」こと、何の専門性も一切持ち合わせていないことを
むしろ誇る人がいるけど、理解できない。
「何もできないからこそフラットな立場でいられる」みたいなことを言うけど、
それは詭弁だ。
フラットな立ち位置など最初からなく、自分の片寄りを自覚した上で
考えを述べ、実際の行動で示すことができない人間は、恐らく信用されない。
「フラットな立場」という片寄りが存在することを、自覚できていない。
その立場は、誰からも攻撃されない安全地帯では決してない。

そんな相手とは、一緒に仕事をしていてもひたすらつまらないし、
刺激も受けないし、突き上げられて焦ることもないし、
せいぜい自分の仕事の邪魔だけはしないでいてくれれば、と思う。

簡単にジョブチェンジできる流動性や
業界の風通しの良さが必要なのは理解できる。
それでも、例えば「文化」と呼べるぐらい完成度の高い仕事を
お客さんに求められる(または自分に課す)のであれば、
それ相応の基礎と経験に裏付けられた、
技術や知識の応用が実践できなくてはならない。

それは気づいたらその日から導入できることもあるし、
ちょっとかじったぐらいでは身につかないこともある。

覚悟を持って続けることで、ようやく見える景色があることは確か。
若い人や、周りのスタッフにそれを求めることはしないけど、
どうしたって良い仕事は良いし、どうしようもなくダメな仕事はダメで、
その差がある以上、最後はお客さんに比べられ、淘汰が起こる。

自分の技術や知識を用いることで
どれだけお客さんやユーザーを幸せにできて、
どれだけ困っている人を助けてあげることができて、
その結果、自分の仕事が幾らの対価(評価額)に変わるのか。

世の中で何かの役に立ちたいのであれば、真剣にそのことを考えないと、
「いなくても問題ない人」にされてしまう。

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